美味しいメロディも「本当にオイシイのは3度まで」だよって話

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いいフレーズを思いついたら、つい何度も使いたくなりますよね。私はそうなります。

でもそのフレーズ、メロディの中で使い回しし過ぎていませんか? 私はそうなります

ということで少し長くなりますが、今回は自戒も込めて掘り下げていきます。

モチーフの繰り返し(反復)は、ポピュラー音楽では当たり前の手法

壮大なメロディも、小さな「モチーフ」の組み合わせでできている

世の中にあるどんなメロディも、1〜数小節程度の短いメロディの組み合わせで作られています。この短いメロディのことを「モチーフ」といい、このモチーフを組み合わせることで、最終的にひとつの楽曲が出来上がります。

モチーフを繰り返すことで、メロディを強く印象付ける効果がある

もちろん、一曲を「全て違うモチーフで作ってはならない」ということはないのですが、モチーフが全て違えば当然「曲想(曲の持つ雰囲気・主題)」が曖昧になります。

同じモチーフを繰り返すことは、その曲の曲想を決定する、言い換えれば「キャッチーな部分を作り出す作業」でもあります。

同じモチーフを使い過ぎると、当然聴く方は「飽きる」

これはある程度予想できることだと思いますが、何度も同じモチーフ(フレーズ)を聴いていると当然飽きてきます。「今から1週間連続、毎食カレーです」と言われたら、いくら美味しいカレーでもゲンナリしますよね。

ではちょうどいい塩梅とはどのようなものでしょうか?

繰り返してオイシイのは大体3回まで

名曲・ヒット曲で実際に使われているのはこんな感じ

モチーフの繰り返しが用いられている(ダジャレじゃないですよ)楽曲は数多ありますが、今回はサンプルとして小田和正さんの『ラブストーリーは突然に』、スピッツの『ロビンソン』、米津玄師さんの『Lemon』を例に、繰り返しのパターンについて見ていきたいと思います。

『ラブストーリーは突然に』/サビ

誰もが知っている小田和正さんの名曲。ドラマ『東京ラブストーリー』の主題歌でもありました。イントロにおけるクリーントーンのカッティング・ギターもまた印象的です。

『ラブストーリーは突然に』サビ

三連符始まりという独特のサビですが、細かく見ると「最初3音が上昇、その後3音が下降する」モチーフが1単位になっています(正確にはモチーフA″ の後4小節目も上昇する三連符ですが、5小節目から始まる別のモチーフとの対比を明確にするため、これ以外のフレーズを充てるのは難しいと思います)。

モチーフの音程は単純な繰り返しではなくコード進行に合わせて変化していますが、単純なトライアド(三和音)の音ではなく7th(1小節目GM7コードにおけるF#)や9th(3小節目Bm9コードにおけるC#)の音で始まっているところが「切なさ」や「キャッチーさ」を生み出している秘密でしょうか。

また、一番のサビの歌詞が「のひ あのと あのばしょで みにあえな(かったら)」と、モチーフと歌詞で始まりの位置が異なる、ポリリズムのような効果を形成しているのも面白いところです(太字は各モチーフの先頭の音)。

『ロビンソン』/サビ

『ロビンソン』は、デビュー直後からじわじわと人気に火がついていたスピッツが、一躍メジャーになったきっかけの曲でもあります。8ビートと16ビートの隙間を縫うようなリズムが非常に心地よいミディアムテンポの楽曲です。

『ロビンソン』サビ

「モチーフA→モチーフA′」では頭の音程が1音上がり、3〜4小節目はセカンダリードミナント(C#7→F#m)の動きによって少しドラマチックな流れになります。5小節目モチーフA″では頭の音程がまた元のF#の音に戻りますが、6小節目の頭では変化したモチーフがG#と上昇しているので、前向きな雰囲気のメロディラインとなっています。

このサビは9〜12小節目まで、1〜4小節目と同じメロディを繰り返しますが、モチーフA′(セカンダリードミナントの動き)の後でモチーフA″には行かず、「ララ ちゅうの〜」と別のモチーフに切り替わります。そして太字の部分で楽曲中の最高音となり、ドラマチックさは最高潮となります。

ボーカル・草野マサムネさんのファルセットも相まって、本当に至上のメロディとなっています。

『Lemon』/サビ

説明不要、YouTubeにおいて5億再生を超える米津玄師さんの代表曲の一つ。ドラマ『アンナチュラル』の主題歌でもありました。

『Lemon』サビ

この曲のサビは、モチーフAを2回反復し、3回目であるモチーフA′の後半ギリギリまで同じとなっている、まさに「美味しいメロディをとことん味わい尽くす」サビとなっています。といっても、決して手抜きをしたいから繰り返しているわけではなく、キチンと計算の上に組み立てられています。

サビの進行上、当然後ろで鳴っているコードは全て異なっているのですが、このモチーフは「メジャー・ペンタトニック・スケール(メジャー・スケールからIV・VIIの音を抜いたスケール)」で構成されているため、ダイアトニックコード内のどのコードが来ても調和しやすい音の構成となっています。

余談ですが、このサビをもっと細かく見ると、「16分音符+付点8分音符」という「一拍分の最小のモチーフ」に分けられます。

『Lemon』サビの最小のモチーフ

サビの大部分はこの「一拍分の最小のモチーフ」を繰り返して進行しますが、最後から2小節目で突如「淡々とした8分音符」のモチーフが現れます。

先に挙げた2曲と同じように「突然ドラマチックかつ効果的にモチーフが切り替わる」のも、良いメロディの条件かもしれません。

実際に4回繰り返すとどうなるのか

試しに『Lemon』の繰り返しを4回にしてみると、一体どうなるのでしょうか?

『Lemon』凡曲改変1

んー、クドい。実際には合計5回の繰り返しになりますが、一気に駄曲に変貌してしまいました。

『Lemon』凡曲改変2

ついでに「淡々とした8分音符」の部分も「一拍分の最小のモチーフ」に変えると、いよいよダサいことになってきました。良いモチーフも用法・容量を間違えると一気に飽和してしまうようです。

「モチーフ×2 + モチーフの変形×1」が一つの答え(か?)

これまでの例を参考にすると、「モチーフ×2 + モチーフの変形×1」を目安に考えるとキャッチーなメロディが作りやすそうですね。

そして、モチーフの反復の後にはまた違う毛色のモチーフを繋げると、よりドラマチックな「ハッとさせる」メロディへの近道になるのかなと思います。

繰り返しが多めでも楽曲として成立している例は存在する

ただし注意していただきたいのは、「同じモチーフを3回以上繰り返すのは禁則ではない」ということです。もちろん、うまく繰り返しを利用して成立している楽曲は数多あります。

『新宝島』のバックでひたすら流れているシンセのリフ

こちらも説明不要、YouTubeで1.9億再生を超えるサカナクションの楽曲です。

『新宝島』リフ

問題のモチーフはイントロから19秒程度経過した、ドラムのフィルが終わったところからずっと鳴っているアレです。ところが不思議なことに、曲の終わり頃までほぼ絶え間なく鳴っている割に、あまりクドさは感じません。

理由としては、モチーフは同じでも、乗っているコードや音色が各セクションごとに変化することで「完全に同じモチーフが鳴っている」と感じさせにくいことが考えられます。

逆に、ずっと同じモチーフが鳴っていることが、かえって楽曲全体に統一感を与えています。それを可能にしているのは、このモチーフが前述の「ペンタトニック・スケール」で作られているためです。

合わせて「メインとなるメロディではなく、あくまでリフである」というのもひとつの要因と考えられます。

スティーブ・ライヒに代表されるミニマル・ミュージック

スティーブ・ライヒといえば、最少のモチーフを用いて(くれぐれもダジャレじゃないですよ)楽曲を構築する「ミニマル・ミュージック」の第一人者です。

彼の代表曲の一つである『Piano Phase』は、なんとたった1つのモチーフをひたすら繰り返すだけという暴挙楽曲です。それでも楽曲として成立する理由は何でしょうか。

ミニマル・ミュージックにおいて、モチーフ自体は繰り返しであったり種類こそ少ないものの、その変化のパターンをうまく組み替えることで楽曲として成立させている、というのが多くの場合に当てはまります。

先に挙げた『Piano Phase』という楽曲は2台のピアノが全く同じモチーフを同時に演奏するのですが、Phaseという名前が示す通り、同じフレーズを弾いているピアノの演奏速度(テンポ)が少しずつずれていくことで有機的なうねりと和音を生成していく、という構成になっています。

モチーフをとことん使い倒す“楽聖”ベートーヴェン

ベートーヴェンは「モチーフの積み重ね」による楽曲を多く書いたことで知られています。

『運命』モチーフ

この譜面を見ただけで、クラシックはあまり得意ではない、という方でもピンとくる人は多いと思います。

交響曲第五番『運命』第一楽章は、まさに「(ン)ジャジャジャ・ジャン」を「これでもか!」と積み重ね、音程と緩急をひたすら変化させて作られた曲です。これはベートーヴェン自身が「運命はこのように扉を叩く」と称して作り出したモチーフですから、もはや執念のようなものを感じます。まあ、一般人がやると単なるマゾヒストじゃないかと心配するんですけどね。

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